モノワイヤレス社の802.15.4無線モジュールTWELITEの豊富なラインナップや開発ストーリーについて教えてもらいました【インタビュー後編】

こんにちは、ムセンコネクトの水野です。今回は無線化講座の特別編です。
2025年10月、ムセンコネクトが所属するミッドホールディングスグループにモノワイヤレス株式会社が加わりました。モノワイヤレスが展開する独自無線マイコンモジュール『TWELITE(トワイライト)シリーズ』は、ホビーユースから業務用まで幅広いユーザーに利用されています。
そこで今回は、無線化講座をご覧いただいているエンジニアのみなさんに「無線化の選択肢」を増やしていただくため、モノワイヤレス株式会社 専務執行役員の奥村さんにTWELITEシリーズの全てを教えていただきました。
TWELITEシリーズのラインナップ紹介

ムセンコネクト水野先ほどTWELITEの特長の一つとして「豊富なラインナップ」のお話が出ました。確かにモノワイヤレスのウェブサイトを見てみると、たくさんのアイテムが並んでいることがわかります。
それぞれのアイテムについて簡単にご説明いただけますでしょうか?



TWELITEのラインナップ(DIP、CUE、STICKなど)は、中心となる無線マイコンモジュールTWELITE(SMDタイプ)を「どのような形で、何に使うか」という目的に応じてパッケージ化しています。基板への取り付けやすさや、内蔵されているセンサー、使用形態によって使い分けられています。
一つひとつ全部説明すると長くなりますけどどうしますか?(笑)





では無線化講座に掲載するときには一覧にまとめたものを用意するようにしましょう(笑)。
TWELITE(SMD) / TWELITE DIP
TWELITE(SMD) / TWELITE DIPは無線通信機能を持ったマイコンそのものを扱う、最も汎用的な製品。


- 特徴
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無線マイコンを裸の状態で半田付けするタイプ。親基板への導入しやすさと開発の敷居の低さが特徴。
- 目的
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最終的な量産品に組み込むことを想定しており、自動実装機で効率的に搭載可能。


- 特徴
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TWELITE(SMD)を手で扱いやすい2.54mmピッチのDIP型基板に搭載したもの。ピンヘッダが実装。
- 目的
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試作、学習、小規模な実験に最適。ブレッドボードや汎用基板に簡単に差し込んで配線可。
TWELITE CUE / TWELITE ARIA
特定のセンサーを内蔵し、すぐに使える「無線タグ」としてパッケージされたもの。


- 特徴
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加速度センサー、磁気センサー、コイン電池ホルダー、アンテナを一体化した小型タグ。
- 目的
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モノの動き(振動、傾き、タップなど)やドアの開閉(磁気センサー)を検知し、無線で知らせる用途。


- 特徴
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温度センサー、湿度センサー、磁気センサー、コイン電池ホルダー、アンテナを一体化したタグ。
- 目的
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環境情報(温度、湿度)を無線で送信する用途。
TWELITE STICK
PCなどの機器と接続し、TWELITEネットワークの窓口となるための製品。


- 特徴
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TWELITEモジュールを搭載したUSBドングル。
- 目的
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親機(ゲートウェイ)や中継機として、PCやタブレットのUSBポートに接続。センサーからのデータを受信したり、無線で設定変更を行ったりする際に使用。


BLUEとREDの違いは?



TWELITEにはBLUE、REDという2種類のモデルがあります。この違いはなんでしょうか?



TWELITEのBLUEとREDの最も大きな違いは、送信出力(電波の強さ)とそれによる通信距離です。これは長距離通信や障害物が多い環境で特に重要になります。
まず送信出力についていうと、BLUEは1mW級(+2.50dBm)の標準出力です。消費電力を抑え、電池寿命を長くしたい場合に適しています。
REDは10mW級(+9.14dBm)の高出力です。電波が強く、より長距離の通信や、壁などの障害物がある環境での通信安定性を向上させたい場合に選ばれます。
通信距離は選択するアンテナや環境によって大きく変わりますが、独自の通信技術と高い受信感度により、見通しで1km以上、障害物のある環境でも数十m〜数百mの実用的な長距離通信を実現します。



送信出力が大きい分、REDは消費電力も大きいのでしょうか?



消費電力については、高出力であるREDの方が送信時の消費電流が大きくなります。ただ、待機時(スリープ時)の消費電力はBLUEとREDでほとんど差がありません。



BLUEとREDは、互換性はあるのでしょうか?



互換性については、通信の相互互換性はあります。よってBLUEとRED間での通信が可能です。
一方、ファームウェアの互換性はないため、TWELITEにファームウェアを書き込む際にはBLUE用、RED用それぞれ専用のバイナリファイルを選択する必要があります。
まとめると、電池寿命を最優先し、通信距離がそれほど必要ない場合はBLUEを、通信距離や安定性を最優先したい場合はREDを選択するのが基本となります。
【開発ストーリー】なぜTWELITEを作ることにしたのか?





ここまでTWELITEの特長や用途、製品ラインナップの違いなどについて教えていただきました。
ここからはモノワイヤレスをより深く知るために、創業当時のお話やTWELITEの開発ストーリーを伺いたいと思います。
そもそもなぜTWELITEを作ろうと思われたのか、背景やキッカケなどを教えていただけますでしょうか?



一言でいえば、当時、手軽に使える無線モジュールがなかったからです。TWELITEの開発は、「無線技術を誰もが簡単に使えるようにしたい」という、強い信念からスタートしています。
開発の根底にあったのは、「無線通信の難しさ」に対する問題意識です。2004年〜2010年頃、無線通信チップは存在しましたが、それを使うには高度な無線工学やマイコン制御の知識が必要であり、非常に敷居が高いものでした。
また、多くの無線モジュールは消費電力が大きく、電池駆動での長期間運用が困難でした。見通しの良い環境では通信できても、実環境ではすぐに途切れてしまうという信頼性の課題もありました。
TWELITEの目標は、これらの課題を解決し、「無線通信をもっと簡単にすること」、そして「配線代わりに使える信頼性の高い無線ツール」を作ることでした。これが、超低消費電力・長距離通信・低コストというTWELITEの核となる特性を生み出す動機となりました。



わたしたちもモノづくりをしていますので、製品を開発して市場に販売するまでにはいろいろな苦労があったのではないかと想像するのですが、TWELITEではどのような苦労があったのでしょうか?



理想とする性能と、市場で受け入れられる価格、その上で日本の認証基準をクリアするという、いくつもの困難がありました。
まず性能面について。単にチップを選定するだけでなく、モジュール全体の回路設計、ソフトウェアの動作シーケンス、電源管理など、あらゆる要素を極限まで最適化する必要がありました。少しの設計ミスが数年単位の電池寿命に影響します。開発初期は、待機時電流が目標値を大幅に超えるなど、目標とするレベルの消費電流を達成するのに、トライ&エラーを繰り返しました。
そして、省電力通信と信頼性の高い多数接続を両立させるための独自通信プロトコル(TWELITE NET)開発にも膨大な時間を要しました。電波は環境によって性能が大きく変わるため、実験室だけでなく、様々な実環境での徹底したフィールドテストが求められました。
これらの高度な技術を盛り込み、かつ国内で生産・サポート体制を整えると、安価な海外製品との価格競争に勝つことが難しくなります。この「実用性とコストの両立」に非常に苦労しました。





やはりさまざまなご苦労があったようですが、ではそのような問題をどのように解決していったのでしょうか?



市場に受け入れられるためのカギは、「価値」にフォーカスすることでした。
開発したのは量産向けのSMDタイプのみではなく、開発者やホビーユーザーが簡単に使えるDIP(ピンヘッダ付き)タイプも用意しました。これにより、「無線が簡単に使える」という体験価値を初期のユーザーに直接提供し、コミュニティを形成しました。
さらに、標準アプリケーションを投入し、複雑な無線知識を不要にする「すぐに使える」ファームウェアを提供することで、無線化の敷居を劇的に下げました。ユーザーはマイコンの知識がなくても、TWELITEを「配線のみ」で使えるようになりました。
そして、超低消費電力という武器に加え、信頼性が求められる火山観測やインフラ監視といった「代替品がない分野での導入実績」を積み重ね、「少々高くても、確実に長期間動く」というTWELITEのブランド価値を確立しました。



「価値にフォーカス」はムセンコネクトでも日頃心がけていることです。とても参考になります。
ではこれがインタビュー最後の質問です。モノワイヤレス、TWELITEの今後の夢を教えてください。



モノワイヤレスが目指すのは、TWELITEを単なる部品として終わらせずに、社会インフラの一部として定着させることです。誰もが意識することなく、センサーや機器が無線でつながり、必要な情報が流れてくる、そんな「空気や水のように当たり前の無線インフラ」を構築したいです。
そのために、TWELITEを通じて、今まで諦めていた分野の無線化を可能にし、ユーザーが「もっと便利で、楽しい」新しい製品やサービスを生み出すための道具であり続けたいと考えています。
今後もモノワイヤレスは、TWELITEの核となる低消費電力性能と通信信頼性をさらに向上させ、より多くのモノが長寿命・高信頼でつながる世界を目指していきます。



