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【共催イベント】Nordic開発エンジニアのための最新nRF54シリーズ解説会

こんにちは、ムセンコネクトCEOの水野です。(プロフィール紹介はこちら

先日、書籍『Bluetooth無線化講座』の刊行記念イベントを開催し、その中で加賀デバイスの吉原氏を迎え、ノルディック・セミコンダクター社(以下、Nordic)の最新BLEチップnRF54シリーズについて解説していただきました。

なお、テキストでは吉原氏の解説をムセンコネクトが一部編集しています。あらかじめご了承ください。

目次

Nordicの特長や魅力を教えてください

水野)
まずはNordicの特長や魅力を教えてください。

吉原氏)
Nordicは1983年設立のノルウェーを拠点とした半導体メーカーです。
BLEチップとしては世界シェアナンバーワンを誇ります。

2012年にnRF51シリーズからスタートし、現在主力のnRF52シリーズは2015年に登場しました。
nRF52シリーズは、Arm® Cortex®-M4 CPUを搭載しマルチプロトコルに対応しています。フラッシュメモリやラインナップも豊富で超低消費電力で動作可能です。
その後、2019年にはnRF53シリーズをリリースしました。nRF53シリーズは、Nordic初のDualコア Arm® Cortex®-M33プロセッサx2を搭載したSoC製品で、LE Audioやプロフェッショナル製品に向けた最適なシリーズとなっています。
そして今年2024年、新たにnRF54シリーズをローンチする予定です。nRF54シリーズは、BLEで定評のあるnRF52とnRF53シリーズの後継として位置づけられており、高い処理能力、優れたエネルギー効率で、最先端のセキュリティが要求されるIoT用途に最適なSoCとなっています。

水野)
これはもしかしたら答え辛い質問かもしれませんが、質問させてください笑

nRF52シリーズは非常に多くのラインナップを揃えていて、現在もBluetooth市場を支えているメインシリーズです。一方、nRF53シリーズはラインナップもまだ少ない中で、次のnRF54シリーズがリリースを迎えました。
このnRF53シリーズから54シリーズへのチャレンジが早まった理由を教えてください。

吉原氏)
その質問は、来ると思ってました苦笑
理由は3つあります。

まず1つ目は、お客様からのさらなる計算能力/効率/メモリ アップの要求
2つ目は、政府からのセキュリティ要求。これはEUで提案されたサイバーレジリエンス法に準ずるものです。
そして3つ目は、Nordicとして新たな供給の確保が挙げられます。 nRF53シリーズはnRF52シリーズと同じプロセスなのでコロナ化の際は供給難のあおりを強く受けました。 nRF54シリーズは22nmの新たなプロセスを使用しており、既存製品とは生産ラインが異なるためリスクヘッジの意味合いもあります。

nRF54シリーズのラインナップは?

水野)
今回ローンチするnRF54シリーズのラインナップとその特徴を教えてください。

吉原氏)
ラインナップは2モデルあります。まずはIoT製品のニュースタンダードモデルとして期待している『nRF54L15』についてご紹介します。

CPUはArm® Cortex®-M33 シングルコアを搭載しています。また、RISC-Vのコプロセッサが搭載されています。RISC-V コプロセッサは後述するモデルにも搭載されており、例えば高速シリアル通信を担わせたり、クリティカルなタイミングシーケンスが要求される処理を任せるといった使い方が出来るようなのですが、実は我々も現時点では具体的な情報をもらっていません。大変申し訳ないのですが、現時点ではメインCPUとは別の処理をできるコプロセッサが乗っているという点だけご認識いただければと思います。
他にも消費電力の削減や処理能力向上、ワイヤレス機能の能力アップ、最先端のセキュリティなどが特徴として挙げられます。

現在主流のnRF52シリーズの中で特に利用されている『nRF52832』とハイエンドモデルである『nRF52840』、この2モデルとnRF54L15を比較した簡易仕様表です。
RAMとしては1,524Kまで増え、セキュリティもPSA レベル3を認定、RISC-V コプロセッサを搭載、受信感度も-98dBmまで向上、動作保証温度範囲も105℃までサポートできるようになりました。単純比較として、nRF52シリーズより上をいく次世代の製品になっていると思います。

水野)
nRF54L15のポイントをまとめると、機能面の性能も上がり、容量も増え、使用温度帯も範囲が広くなったということで文句なしですね。広く使えそうなまさにニュースタンダードモデルになりそうですね。

ところでまた意地悪な質問をさせてください笑
皆さんが気になるお値段ですが、nRF52シリーズと比べてどうなんでしょうか??結局、そこを含めてニュースタンダードモデルになれるかどうかが問題ですよね!?

吉原氏)
何とも答え辛い質問ですが。。。

前提として開発段階である現状では、我々代理店も見積もりを取れる段階ではないので正確なコストは把握していません。
ただ数量条件にもよりますが、nRF54L シリーズはnRF52 シリーズと比較して同等またはそれ以上の価格競争力があると聞いています。

続いてもうひとつのモデルで、ハイエンドモデルとして期待している『nRF54H』についてご紹介します。

CPUはArm® Cortex®-M33 デュアルコアを搭載しています。先述した通りRISC-V コプロセッサも搭載しています。
新しい周辺機能の搭載、ワイヤレス機能の能力アップ、最先端のセキュリティが特徴として挙げられます。

同じくデュアルコアであるnRF53シリーズの『nRF5340』とnRF54H20を比較した簡易仕様表です。

CPUの処理性能がアップ、メモリも増加、セキュリティも向上、これまでなかったような周辺機能が搭載、さらにコプロセッサは2つも搭載され、機能/性能としてはかなりリッチになった印象です。
送信出力は+10dBmと、日本国内でBLE通信をする際の最大値に設定されています。受信感度は-100dBmに設定されており、Nordicのラインナップの中でも、世界中のBLEチップの中でもハイエンドなモデルに仕上がりました。

水野)
nRF54H20は一言でいうと高性能、現在のノルディックの中ではF1カーとなりそうです。
具体的にどのような用途でユーザーが使用する姿を想定しているのでしょうか?

吉原氏)
今までのシリーズは、例えばBeaconやウェアラブル製品のような1チップで構成されるアプリケーションでも幅広く使われていますが、多くの機能を持った機器の場合は中心にメインマイコンが存在し、それの横でBLE等の無線通信をさせるいわゆる無線マイコンとして採用される機会が多いです。
このnRF54H20は無線マイコンというよりは、無線機能も搭載しているハイエンドなメインマイコンという風にイメージしていただきたいです。
用途としては、例えばエッジコンピューティングや産業IoT機器、VR/AR、高度なゲームコントローラなどが考えられますし、規格的なところでいうとLE AudioやMatterのような仕様的に重いプロトコルで活躍できると考えています。

開発環境もアップデート、nRF Connect SDKとは?

水野)
nRF54シリーズでも必要になってくる、Bluetooth v5.2から登場した新しい開発環境プラットフォーム『nRF Connect SDK』についても教えてください。

吉原氏)
日本市場におけるBLEの開発環境プラットフォームは、現在もnRF5 SDKが広く使われています。

ただ、ThreadやZigbeeなどの無線通信規格はnRF5ベースの別SDKが使われていますし、Bluetooth meshも同様です。今後、無線通信規格として新機能が増えてきたときにそれぞれのSDKを用意していては開発が間に合わず、非効率となります。またOSレスでの制御にも限界が出てくることが予想されます。
そこで NordicはCellularやWi-Fi製品も含めたすべてにZepher OS※と呼ばれる通信機能を備えた組込みRTOSを採用し、1つの開発環境に集約しました。こうやって「新機能にいち早く対応できるようになった」のがnRF Connect SDKになります。

※Zepher OSとは?
Linux Foundationが IoTに特化して開発したOSであり、Intel, NXP, Nordicなどがプラチナメンバーとして参加。主にセキュリティー性を重要視した設計で、リソースに制約のある組み込みシステム向けにフットプリントが小さくなるよう設計されている。

現在も主流となっているnRF5 SDKはメンテナンスモードとなり、今後のバージョンアップは行われません。また、新製品や新機能はnRF Connect SDKに追加されていくことなるため、nRF Connect SDKへの切替は必須となります。
現在、NordicではnRF Connect SDKの勉強用サイトDevAcademyを公開しています。

Nordic Developer Academy
Nordic Semiconductor Online Learning Platform Welcome to Nordic Developer Academy. The interactive online learning platform here to equip developers with the technical information and know-how to build wire...

弊社のコラムでもそこから抜粋して、nRF52でnRF Connect SDKを使うスタートアップを公開しています。ご興味があればご覧ください。

最後に、Visual Studio Code での開発イメージをお伝えして終わりたいと思います。

詳しくは省略しますが、Blinkyというプロジェクトの中に、デバイス毎のビルド環境を構築することができます。これにより、同じソースコードを使って別々のデバイスで動作確認やデバッグをすることができます。ただし、周辺機能の有無、ROM・RAMの過不足は確認する必要があります。現時点でnRF54シリーズは含まれていませんが、今後は追加されていきますので、まずはnRF52またはnRF53でnRF Connect SDKに慣れていただくのをおススメします。

水野)
弊社でも1-2年前からnRF Connect SDKに着手し、現在では問題なく扱えるようになりましたが、やはり従来とは異なる部分が多いためスムーズな移行はハードルが高い気もしています。
実際はどうなんでしょう、現在ユーザー様ではどの程度浸透、普及されてきた印象ですか?

吉原氏)
引き続きnRF5 SDKを使用されているユーザーもまだまだ多いのが現状です。

確かにこれまでnRF5を使われていたユーザーとしては、それまでのノウハウがありますし、単純に使い慣れているという点もあると思います。
ただ、LE AudioやMatterなどの新しい規格を検討されているお客様にはnRF Connect SDKで開発スタートしていただいており、最初戸惑いはあるものの、慣れてくるとこちらの方が使いやすいというお声をいただいています。
私も最初は構造の違いに戸惑いましたが、慣れてくるとデバイスのセットアップや環境構築、機能やプロトコルの追加はnRF Connect SDKの方がはるかに楽です。
先ほど紹介したDevAcademyではインストール方法からステップバイステップで実際に動かしながら進められるので、まず触ってみる・慣れてみるという点では非常に有効なサイトとなっています。

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