テクノ・システム・リサーチが語る、事情通しか知らないBluetooth® IC市場動向【2025年最新版】

こんにちは、ムセンコネクトCEOの水野です。(プロフィール紹介はこちら)
今回は無線通信業界に精通している株式会社テクノ・システム・リサーチ(以下、TSR社)の丹波さんをお迎えして、Bluetooth® ICの最新市場動向について解説していただきました。 Bluetooth SIGが公開しているマーケットデータとはどこが違うのか?なぜ違うのか?その謎に迫ります。
目次
テクノ・システム・リサーチ(TSR)について

- 1981年設立の老舗市場調査会社。エレクトロニクス・テクノロジー業界に特化し、グローバル市場をカバー。
- 企業への直接インタビュー、決算情報、統計データを組み合わせた緻密な分析が強み。
- 大手電子部品メーカーからの信頼も厚い(ムセンコネクト水野談)。
- コラボ動画の背景は、Bluetooth SIGが発表しているマーケットデータとTSR社の調査データには大きな差異がある。
- 無線化講座をご覧の方に、別観点でのデータをご紹介するため、ムセンコネクトがTSR社に解説を依頼。
Bluetooth IC市場予測【IC種類別】

- 2024年のBluetooth ICの市場規模について、Bluetooth SIGの予測は約50億個に対し、TSR社の分析では倍以上の100億個超と予測。
- 数字が大きく乖離しているのは、TSR社のリサーチ対象が「格安中国ICメーカー」にまで及んでいるからだと考えられる。
- 最もシェアが高いのは「BluetoothオーディオSoC」で全体の44%、次いでWiFiコンボICが20%、Bluetooth LEシングルモードICが19%と続く。
- 中国のJieli社やBluetrum社がオーディオ向けで圧倒的な数を占めており、Bluetrum社だけで年間19億個もの出荷実績がある。
- これらの安価な中国製ICは、100円ショップのワイヤレスイヤホンなどに代表される低価格製品に広く採用されており、日本市場でも普及が進んでいる。
Bluetooth IC市場の出荷数と金額規模

- BluetoothシングルモードICの出荷数は2025年の76億個から、2031年には97億個(金額にして約50億ドル弱)へ成長するとの予測。
- 出荷数ではBluetoothオーディオICが全体の62%を占め、次ぐBLEシングルモードICの28%を大きく引き離している。
- デュアルモードICも出荷規模は小さいものの、年間約7億個のICが安定して出荷されている。
- BLEシングルモードICの単価は、中国製の約0.1ドルから欧米製の約2.5ドルまで、最大約25倍もの価格差が存在する。
- 機能の差はあるものの、中国メーカー製のICは総じて極めて安価であり、市場において大きな存在感を示している。
BLE Single Mode SoCの用途別内訳(成熟 / 成長 / 縮小)

- 従来のリモコンやPC周辺機器に加え、紛失防止タグや物流用タグ(トラッカー)、ヘルスケア分野での採用が伸びている。
- スマートウォッチ類ではオーディオ機能の統合(追加)が進んだことにより、採用されるICも従来のBLEシングルモードICからオーディオ対応ICへ切り替わりつつある。
- 新機能「チャネルサウンディング」を活用したスマートキーや、EVバッテリー管理などの車載用アクセサリー分野が成長市場として期待されている。
BLE Single Mode SoCのメーカーシェア(出荷台数 / 金額)

- メーカーシェアは非常に分散しており、把握されているだけで約60社のICメーカーが存在する。
- そのうちの半数強が中国メーカー。
- 出荷台数で見ると全体の30%強を中国メーカーが占めている。一方、金額ベースで見ると中国メーカー全体でも10%以下にとどまっている。
- 出荷台数に比べて金額シェアが低いのは製品単価が安いため。
- Nordic Semiconductor社が出荷台数、金額ともにトップシェア。
- 出荷台数は全体の約20%、金額は全体の約33%。
- 追随するメーカーとしてはRealtek社(台湾)、Telink社(中国)、PhyPlus社(中国)などが挙げられる。
- 特にTelink社とPhyPlus社は中国メーカーの中でも存在感が大きい。
BLE Single Mode SoCの用途別主要ICメーカー一覧

- BLEシングルモードSoC市場では、メーカーごとに得意とする領域が分かれている。
- 中国メーカー:マウス、キーボード、リモコンなど、ソフトウェアが比較的単純で、すぐ製品化できる分野に強い。
- 欧米メーカー:産業機器、ヘルスケア、モジュールなど、より複雑で幅広い用途で活用されている。
- 車載向け:NXP社やTI(Texas Insturuments)社といった特定のメーカーが強いシェアを持っている。
- 高度なソフトウェア開発が必要な用途では、充実したSDKや手厚い技術サポート体制が整っている欧米メーカーが選ばれる傾向にある。
BLE Single Mode SoCメーカーの各Bluetooth機能への対応動向

- Bluetoothの各バージョンで追加されている新機能(AoA、LE Audio Auracast、PAwR、チャネルサウンディング)についてはメーカーごとに対応状況が異なる。
- Nordic社、Telink社、Silicon Labs社などは比較的多くの最新機能に対応している。
- LE Audioの現状として、デュアルモード用ICでは対応しているメーカーが多いが、シングルモード用ICでの対応はまだ限定的。
- チャネルサウンディングは車載や紛失防止タグなど広範なコンシューマー市場が見込まれるため、対応するメーカーが増えてきている。
- 中国の車載市場での需要が高まっており、NXP社やTI社といった大手だけではなく、中国のローカルメーカーでも対応が進んでいる。
Bluetooth IC動向(Edge AI統合)

- 生成AIの普及に伴い、Bluetooth ICがAI機能を組み込む「Edge AI」がトレンドとなっており、多くのICメーカーがこの動きを強めている。
- センサー、音声、映像などの入力データをクラウドに送るのではなく、端末側で直接認識・処理させる流れがある。
- AI機能やプロセッサー、メモリーの強化により、SoCの付加価値が向上。これがIC単価の価格差を広げる一因となっている。
今後の見通し / まとめ

- Bluetoothは新しい規格や機能の導入(LE Audioの拡張、HDR/8Mbps PHY、チャネルサウンディング、低遅延HIDなど)により、用途拡大・ClassicからBLEへの移行・独自規格の標準規格化が見込まれる。
- データ通信分野やオーディオ分野において、中国メーカーが圧倒的な出荷数と低価格を武器に存在感を強めている。
- ミッドハイエンドからローエンドまで、各層で中国メーカーが市場規模の拡大を牽引している。
- 存在感を増す中国メーカーに対して、従来の欧米メーカーは高付加価値や強固なビジネスモデル、大規模な事業展開に強みを持っており、市場内での棲み分けが明確になっている。
