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【Bluetooth® Channel Sounding】ついにスマホで利用可能に! その精度を徹底検証

BLE-ChannelSounding

こんにちは。ムセンコネクト三浦です。

本日は今注目のBluetooth® LEを利用した高精度距離測定技術であるチャネルサウンディング(Channel sounding)について、最新の動向と実際の測定結果をご紹介します。

最近ではスマートフォンでもチャネルサウンディングを利用できるようになり、これからますます世の中で利用されていくことが期待されます(2025年11月執筆時点)。

この記事では、ムセンコネクトが実際に行ったスマートフォン(Google Pixel 10)を用いたチャネルサウンディングによる距離測定の結果をご紹介します。

スマートフォンで距離測定をしている時のアプリ例(nRF Toolboxの画面)
目次

Bluetooth® チャネルサウンディングとは?

まずはチャネルサウンディングの基本をおさらいをしましょう。

チャネルサウンディング(Channel Sounding)は、Bluetooth LE通信を利用して離れた2つのデバイス間の距離を高精度に測定するための技術です。

2024年9月にBluetooth Core 6.0で追加になりました。

従来はBluetooth通信時の電波の強さ(受信電波強度:RSSI)を利用することでデバイス間の距離を測定することができましたが、あまり精度が良いものとは言えず、実用性に課題がありました。

チャネルサウンディング技術の導入により、この精度が劇的に進化して、数十センチメートルレベルの誤差精度で正確な距離測定が出来るようになりました。

InitiatorとReflector

チャネルサウンディングでは「Initiator(イニシエータ)」と「Reflector(リフレクター)」の2つの役割で構成されます。

Initiator(測定側)

距離を測定する側のデバイスです。今回はスマートフォン(Pixel 10)がこの役割を担います。スマートフォン側でチャネルサウンディングの機能を利用するためには専用のアプリが必要です。

Reflector(応答側)

Initiatorからの電波を受け取り、応答として電波を返す役割のみを行います。Reflector側で距離測定の結果を知ることはできません。

RTTとPBR

チャネルサウンディングでは、主に以下の2つの手法を組み合わせて距離を測定します。

RTT(Round Trip Time:往復時間)

RTTは、信号がInitiatorからReflectorに送信され、再びInitiatorに戻ってくるまでの総時間を測定する手法です。

電波の伝播速度が光速(約3×10⁸m/秒)であることを利用し、往復時間から距離を算出します。
 距離 = ( RTT時間 × 光速)/ 2

実際にはReflector内部での信号処理時間を正確に補正する必要があります。

PBR(Phase-Based Ranging:位相ベース測距)

送信信号と受信信号の位相差を複数の周波数(チャネル)で測定し、その情報から距離を推定する手法です。
周波数が高くなるほど、距離に対する位相変化が大きくなる性質を利用するため、より多くの周波数を利用することで精度が向上します。Bluetoothのチャネルサウンディングでは、最大72チャネルを利用可能です。

距離測定を実施した構成

以前、Nordic Semiconductorの評価基板であるnRF54L15 DKボードを2枚利用してチャネルサウンディングの測定を実施しました。
その時の構成は以下のような構成でした。

役割デバイス
Initiator側nRF54L15 DK
Reflector側nRF54L15 DK

今回の実験では、以下の構成で測定を実施しました。

役割デバイス補足情報
Initiator側Pixel10Android16 QPR2 Beta3
nRF Toolboxアプリ
Reflector側nRF54L15 DKNCS 3.1.1

Initiator側のスマートフォンアプリには、Nordic Semiconductorが提供するnRF Toolboxを利用しました。

Android16以降ではチャネルサウンディングに対応した「RangingManager」というクラスが用意され、自分で距離測定機能を持ったアプリを作ることもできるようになりました。

このクラスでは「Bluetooth Channel Sounding」、「UWB」、「Wi-Fi RTT」、「BLE RSSI」の4つの測位手法をまとめて扱うことができるため、アプリ開発者は裏側で利用されている無線技術について深い知識がなくても「距離を測定する」という機能を扱うことが可能です。

屋外での距離測定

前回同様、まずはチャネルサウンディングを屋外で試してみました。
場所はムセンコネクトの駐車場です。50mまで距離を離して検証をすることができます。

イニシエータデバイスであるPixel 10を固定設置して、リフレクターデバイスであるnRF54L15-DKを動かして距離を離しながら測定を実施しました。

結果は以下の通りです。

グラフは20回測定した結果をプロットしたものです。

  • 50mの長距離でも距離測定を行うことが出来ました。
  • 距離が離れても一定の距離精度が維持出来ていて、かなり精度が良い印象です。
  • 前回nRF54L15 DK同士で実験した時と比べてもバラツキが少なく精度が良いと思います。
  • 前回nRF54L15 DK同士で実験した時にバラツキが大きかった5m地点、10m地点でもそれほど大きなバラツキがありませんでした。

屋内での距離測定

次に屋内でチャネルサウンディングを試してみました。
場所はムセンコネクトの社員ホールです。10mまで距離を離して実験をすることができます。

イニシエータデバイスであるPixel10を固定設置して、リフレクターデバイスであるnRF54L15-DKを動かして距離を離しながら測定を実施しました。

結果は以下の通りです。

  • 屋外の結果と比べると環境要因の影響を受けやすく、距離測定精度が悪くなりました。
  • 3m、4m、8m、10mでの測定結果が特に精度が悪く、測定試行毎のバラツキが大きくなっています。これは以前にnRF54L15 DK同士で実験したときにも同じような傾向でした。やはりマルチパス(反射波)の影響など環境要因によるものと考えられます。
  • 全体的に遠めの測定結果になる傾向が見られました。
  • 屋外と比べると精度が悪くなり少し残念な結果でしたが、従来のRSSIを利用した距離推定と比較すると距離推定精度がよくなっています。

まとめ

Bluetooth LEの新しい機能であるチャネルサウンディングがスマートフォンで利用できるようになったので実際にその距離測定精度を検証しました。

屋外では高い精度が確認できた一方で、屋内ではマルチパス(反射波)の影響による精度低下も見られました。
ですが、従来のRSSIベースの距離測定手法と比較すると劇的な進化を遂げていることが確認できました。

チャネルサウンディングに期待されるユースケースの一つに、自動車のスマートキーへの応用が挙げられます。今回の実験結果を見ると、「スマートフォンを持って自動車に近づくだけで鍵が解錠される」、そんな魅力的な機能が実現される日はそう遠くないと実感できました。

ムセンコネクトでは引き続きチャネルサウンディングに関する調査・開発を進めていきます。今後行う実験結果についても、随時情報共有していく予定です。

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