ゼロからわかる環境発電入門(8)振動発電・圧力発電(力学的エネルギー発電)

こんにちは。ムセンコネクト三浦です。
環境発電(エネルギーハーベスト)は、身の回りにある微小なエネルギー(光、熱、振動など)を「収穫」し、電力に変換して利用する技術のことです。本連載では、この「環境発電・エネルギーハーベスト」を複数回に分けて基礎からわかりやすくご紹介していきます。
今回は「振動・圧力(力学的エネルギー)」について、その仕組みやメリット、具体的な活用シーンを解説します。私たちが普段何気なく行っている「動作」や、機械やモノの「動き」を電力に変える非常に実用性の高い分野です。
力学的エネルギー発電とは?
力学的エネルギー発電とは、物体が動くことで発生する「振動」「圧力」「歪み」「回転」などの物理的なエネルギーを電気に変換する方式です。
光や熱の発電と大きく違う点は、「何かが起きた(動いた)」をエネルギーに変換できることです。
以下の4つの代表的な発電方式があります。
① 圧電方式(Piezoelectric)
特定の素材(セラミックスなど)に圧力を加えたり、ひずませたりすると内部のプラスとマイナスの電荷のバランスが崩れ、表面に電圧が発生します。これを「圧電効果」と呼びます。
この圧電効果を利用して電気を取り出す為の電子部品をピエゾ素子(圧電素子)といいます。

- メリット
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- 薄型・小型:金属板状、フィルム状、チップ状にできるため、狭い隙間にも設置可能。
- 高電圧:指で押すような小さな動作でも高い電圧(数V〜数十V)を得られる。
- デメリット・気をつけるポイント
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- 電流が小さい:電圧は高いが、流せる電流(パワー)が非常に小さい。
- 脆さ:セラミックス素材の場合、強い衝撃があると「割れ」や「劣化」が生じやすい。常に変形を繰り返すため、「材料の疲労破壊」に注意が必要。
ピエゾ素子は逆に電圧をかけることで振動を取り出すこともできるため、電子機器のブザーとしてもよく活用されています。

② 電磁誘導方式(Electromagnetic Induction)
コイルの近くで磁石を動かすと、コイルを貫く磁力線の数が変化し、それを打ち消そうとして電流が流れます(ファラデーの電磁誘導の法則)。
下の図は「横方向の動き」で発電するイメージですが、これを回転体に応用すると「自転車のダイナモ(発電機)」や「風車発電機」のように「回転する動き」を効率よく発電に利用できるようになります。

- メリット
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- 大電流:比較的大きな電流を取り出しやすい。
- 低周波に強い:ゆっくりとした揺れ(橋の揺れや歩行など)からも発電できる。
- デメリット・気をつけるポイント
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- サイズと重さ:磁石とコイルが必要なため、どうしても厚みや重さが出てしまう。
- 磁気漏れ:周囲の精密機器や磁気カードに影響を与える可能性がある。
- 共振設計:振動発電に応用する場合、環境の振動周波数とデバイス内部の重りの揺れやすさを一致させないと、発電効率が落ちてしまう。
③ 逆磁歪方式(Inverse Magnetostrictive)
「磁歪材料(鉄・コバルト合金など)」は、力を加えて変形させると、その材料が持つ磁界の強さが変化します。
この磁界の変化を周りに巻いたコイルで捉えて発電します。

- メリット
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- 圧倒的な頑丈さ:材料が金属(合金)なので、圧電素子のような脆さがなく、大きな荷重や激しい振動でも故障しにくい。
- 高効率:大きな荷重がかかる場所(道路や橋梁、工場)でのエネルギー変換効率が高い。
- デメリット・気をつけるポイント
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- コスト:特殊な合金を使用するため、材料費が高価になりがち。
- 設計の難易度:磁気回路の設計が複雑で、専門的なノウハウが必要。
- 強い振動が必要:小さい荷重や振動では発電量が小さい。
- サビ(腐食):素材が金属であるため、錆びたり、腐食するおそれがある。
④ 静電方式・摩擦発電(Triboelectric)
異なる2種類の素材(プラスチックと金属など)がこすれ合ったり、くっついたり離れたりする時に発生する「静電気」を利用します。
エレクトレットという静電気を半永久的に安定に保持する素材が利用されます。

- メリット
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- 低コスト:身近なプラスチックやゴムなど、安価な材料で作れる。
- 多様な形状:衣類に編み込んだり、タイヤの裏に貼ったりと、柔軟な設計が可能。
- デメリット・気をつけるポイント
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- 超高電圧・超低電流:数千Vの電圧が出ることもあるが、電流は極めて小さく、扱いが非常に難しい。
- 摩耗:常に接触・摩擦させるため、表面が削れて性能が落ちる懸念がある。
- 湿度に弱い:雨の日や湿気の多い場所では、静電気が逃げてしまう。
『ジバでんき』は交流電線に取り付けて利用します。
電線の周囲に発生する磁界変動により磁石が振動し、その振動エネルギーを圧電素子で電力に変えています。なので、発電原理としては圧電方式による振動発電の分類です。
ユニークなのは、交流電線はもともと振動しているわけではないというところです。
「普段振動していないものから振動を作り出して、振動を電気に変える」という発想がとても面白いですね。


どのようなシーンで利用・期待されているか?
「動き」を電力に変えるこの技術は、以下のようなシーンでの利用が期待されています。
バッテリーレスのリモコン・スイッチ【圧電・電磁誘導】
スイッチを「押す力」そのもので発電し、無線信号を飛ばします。
住宅の照明スイッチや工場の呼び出しボタンなどを配線レス・電池レスで実現できます。
インフラ(橋梁・道路)の監視【電磁誘導・逆磁歪】
車が通るときの橋の揺れや、道路の歪みを利用して発電し、異常を監視する為のセンサを動作させます。
電源を引けない場所や、大型重機が通るような過酷な環境でのインフラ点検を自動化できます。
モーター・機械の故障予知【電磁誘導・圧電】
工場などで常に振動しているモーターの振動で「自己発電」しながら、モーターの健康状態を監視します。
配線不要で後付け設置ができ、故障すると機会損失が大きい設備の予防保全に活用できます。
足元発電(スマートフロア)【圧電・静電】
駅の改札や通路に発電床を設置し、人の歩行による圧力で発電します。
通行人数の計測や、案内表示の点灯に活用されています。
まとめ
力学的エネルギー発電は、日常の中で普段からある「動き」を「価値あるエネルギー」に変えることができる技術です。
特にIoTの分野では、「人間や機械が動いた時にデータを送りたい」というニーズが多く、この発電方式との相性はとても良いものとなっています。
メンテナンスフリーが求められる産業現場やインフラにおいて、極めて現実的な電源ソリューションとなりつつあります。
次回も、環境発電・エネルギーハーベスト技術のポイントを紹介していきます。



