【重要】LINBLE-Z2量産販売開始およびLINBLE-Z1使用部品変更予定のお知らせ

ゼロからわかる環境発電入門(5)蓄電デバイス

ゼロからわかる環境発電

こんにちは。ムセンコネクト三浦です。

環境発電(エネルギーハーベスト)は、身の回りにある微小なエネルギー(光、熱、振動など)を「収穫」し、電力に変換して利用する技術のことです。

「エナジーハーベスト」、「エネルギーハーベスティング」、「エナジーハーベスティング」とも呼ばれます。

本連載では、この「環境発電・エネルギーハーベスト」を、複数回に分けて基礎からわかりやすくご紹介していきます。

前回は、発電して蓄えたエネルギーを利用する段階で特に重要となる「センシング」と「無線通信」について紹介しました。

今回は、電力を蓄える際に重要な「蓄電デバイス」に焦点を当てて解説します。

環境発電では蓄えられる電力が大きければ大きいほど良いというものではありません。発電素子の特性や利用用途に合わせて「蓄電デバイス」を選ぶことが重要です。せっかく発電した電力を逃さないために、どのような蓄電デバイスを選択するのが良いか、説明していきます。

目次

なぜ「蓄電」が必要か?

環境発電で発電する電気は「微弱なもの」「不安定なもの」がほとんどです。

環境発電ではよく電力を水に例えます。
発電した電力は、蛇口からチョロチョロと流れている水です。

センシングして無線通信を行うにはチョロチョロと流れている電力をそのまま利用することは出来ません。動作しようとしても一瞬で電力が使われて、動作できずに終わってしまいます。

電力を利用する為には、一度バケツに水を貯めてから一気に利用する必要があります。バケツの下側にもう一つ蛇口があり、貯めた水を一気に流すようなイメージです。

このように電気を溜め込み、必要な時に勢いよく送り出すバケツの役割を担うのが蓄電デバイスです。

「コンデンサ」か「二次電池」か?まずは種類を知ろう

蓄電デバイスは大きく分けて2系統あります。それぞれの特徴を解説します。

① コンデンサ(キャパシタ)

蓄えられる電力はとても小さいですが、充放電が早く、寿命が長いのが特徴です。

セラミックコンデンサ

  • 容量は小さいですが、漏れ電流(自己放電)が極めて少ないのが特徴です。
  • 発電量や消費量が極めて少ない(μW級)システムや、起動の早さが求められるような用途に向いています。

アルミ電解コンデンサ

  • 環境発電では発電した電力が高電圧になることがありますが、アルミ電解コンデンサは高電圧に対応しています。
  • しかし漏れ電流が大きく、長時間電力を貯めておく用途には向きません。

電気二重層キャパシタ(EDLC)

  • セラミックコンデンサより大容量ですが、漏れ電流は少し大きいです。
  • 無線通信に必要な電力を蓄えられるため、無線通信を行うIoTセンサに向いています。とはいえ、無線通信を連続して行う程の容量には足りません。

② 二次電池類

蓄えられる電力が大きく、長時間駆動に向いています。近年、技術革新が著しい分野です。

リチウムイオン電池(Li-ion)

  • 大容量ですが、漏れ電流が大きい特徴があります。発火リスク等への安全対策も必要になります。
  • 屋外の大型ソーラーパネルなど、発電量に余裕がある場合を除き、小型ハーベスト機器では扱いにくいかもしれません。

全固体電池(表面実装対応の小型電池)

  • 電解液を持たない次世代の電池です。漏れ電流が極めて少なく、基板に表面実装が可能です。
  • 容量は小さめですが、安全性が高く取り扱いが容易です。小型IoTセンサデバイスを開発する際には有力な候補になります。まだ価格が高いのが難点です。

半固体電池(LTO電池)

  • チタン酸リチウムを負極材として利用しています。寿命が長く、キャパシタ並みの瞬発力を持つ特徴があります。
  • 10年以上の長期稼働や、氷点下などの過酷な環境にも適しています。ただし電圧が約2.4V程度で低めですので、回路設計に工夫が必要です。 

蓄電デバイスの選定ポイント

蓄電デバイスを選ぶ時のポイントを説明します。

蓄電容量

電力を貯められる容量のことです。コンデンサの場合はF(ファラド)、電池の場合はmAh(ミリアンペア・アワー)で表現されます。

「大は小を兼ねる」という発想で大きい容量のものを選びがちですが、大きい容量のバケツを選ぶと、バケツが空の状態から電力を貯めていく場合に、電圧がなかなか上がっていきません。

コップのような小さいバケツと、貯水槽のような大きなバケツなど色々なバケツがありますが、蓄電デバイスはバケツの容量に対して、電力がどのくらい貯まったかで電圧が変わっていきます。

貯水槽のような大きなバケツを利用した場合、チョロチョロしか入力されない電力では、利用できる電圧まで高くなるのに長い時間がかかってしまいます。

あえて小さい容量のバケツを利用することで、バケツが空の状態から電圧が高くなるまでの時間を短くすることができます。

一方、別の観点にはなりますが、例えば太陽光発電を利用した環境発電デバイスなどでは、ずっと雨の日が続いてしまった場合に十分な発電が出来ず、蓄えた電力が徐々に消費されてしまうことが考えられます。

このようなシーンでも安定した利用を望むのであれば、容量が大きい蓄電デバイスを利用するのが良いでしょう。

リーク電流(漏れ電力)

実はバケツには小さい穴が開いていて、何もしていなくても少しずつ電力が漏れてしまっています。これをリーク電流(漏れ電流)と言います。

この漏れてしまう電力の量(リーク電流)は蓄電デバイスの種類によっても変わってきます。
せっかく発電した電力が漏れて消えてしまうのはもったいない話です。

更に注意しなければならないのは「発電量 < 漏れ電流」となってしまうと、永遠に電気が貯まらないことです。

特に微弱な発電素子を利用する場合は、蓄電容量よりも、まずは「リーク電流(漏れ電流)がいかに小さいか」を最優先で選定した方が良いでしょう。


環境発電デバイス(アンビエントIoTデバイス)の開発において、蓄電デバイスは発電と利用のギャップを埋める心臓部です。発電素子の特性や利用シーン(間欠動作や連続動作)に応じて蓄電デバイスを選択することが、デバイスの長寿命と安定稼働を決定づける重要な鍵となります。

次回も、環境発電・エネルギーハーベスト技術のポイントを紹介していきます。

よろしければシェアをお願いします
目次