【 無線化講座が「本」になりました 】ムセンコネクト著書『Bluetooth無線化講座』出版決定

Bluetoothの通信距離を決める『5つの要素』

こんにちは、ムセンコネクトCEOの水野です。(プロフィール紹介はこちら

本テーマは動画解説をメインとしておりますが、テキストでの解説もご用意しております。
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最近、メーカーエンジニアの方々から『Bluetoothの通信距離』に関するお問合せが増えています。そこで今回は、そもそもBluetoothはどの程度遠くまで届くのか?、その検証結果を交えながら、通信距離を決める『5つの要素』について解説します。

目次

Bluetoothはどこまで届く?どのくらい離れても大丈夫?

Bluetoothは『近距離無線通信』だが、意外と通信距離も飛ぶ

Bluetoothは一般的に『近距離無線通信』に分類され、実際に最もよく知られているBluetoothのユースケースも、オーディオストリーミングやウェアラブルデバイスなど、近距離無線通信での用途が多いと思います。ですが、これはBluetoothの通信距離性能に限界があるということではありません。意外と思われるかもしれませんが、実はBluetoothも長距離通信が可能です。

実際、Bluetooth信号は1km以上離れた距離へ到達したり、200-300m間での通信接続も可能です。以下はNordic Semiconductor社の実測データですが、見通しの良い海岸線沿いであれば最長距離として約1,300m離れた場所でもBluetooth信号が受信できたことが報告されています。

このような技術的進化もあり、Bluetoothはドローン分野での視覚範囲外遠隔操作など、多方面での長距離通信活用が期待されています。

Bluetoothの通信距離を決める『5つの要素』

一般的に近距離通信無線と呼ばれるBluetoothでも、なぜデバイスやモジュールによって通信距離が変わるのでしょうか?

それは、Bluetoothの通信距離を決める要素はいくつもあり、各デバイス・モジュールごとにそれら要素が異なるため、結果として通信距離の長短も変わってくるからです。

ここでは、Bluetoothの通信距離を決める5つの要素を順にご説明していきます。

①送信出力

まず1つ目の要素は『送信出力』です。送信出力は、例えていうなら『声の大きさ』と同じイメージです。

声が大きければ大きいほど、遠く離れた人にも聞こえますが、同時により多くのエネルギーを必要とします。Bluetoothの送信出力も同じで、送信出力が高いほど、より遠くの相手に電波が届く可能性が高まり、有効距離が長くなりますが、一方で、送信出力を上げると、デバイスの消費電力も増えてしまいます。つまり、送信出力レベルの選択は、通信距離と消費電力のトレードオフの関係にあります。

実際のデータで確認してみます。送信出力が+8 dBmと+4 dBmの消費電流を比較すると、どの動作状態においても送信出力が高い方(+8 dBm)が消費電流が大きくなるという結果が得られています(同じ1M PHYでの比較)。

https://www.musen-connect.co.jp/blog/course/product/coded-phy-long-range-ble-module-current-throuthput/

Bluetoothの送信出力範囲

Bluetoothの送信出力範囲は、『-20 dBm(0.01 mW)~ +20 dBm(100 mW)』をサポートしています。その送信出力範囲に対して、Bluetoothでは規格毎にClassという区切りで各デバイスを分類しています。

②PHY

2つ目の要素は「PHY」です。PHYとは日本語で物理層のことを指し、Bluetooth通信の構成の中でも、下部を支える重要な層になります。

前述した送信出力が同じでも、PHYが異なれば通信距離は大きく変わります。現在、BLEには3つのPHYが存在し、2M PHY < 1M PHY < Coded PHYの順に通信距離が長くなることが分かっています。

実際のデータで確認してみます。送信出力が同じ+8dBmでも、選択するPHYを変更するだけで、通信距離が100m以上異なることが分かります。BLEの長距離通信機能であるCoded PHYの場合、通信確認できた最大値が300mを超えてはいますが、2M PHYでは200mを過ぎたあたりで通信確認ができなくなっています。

https://www.musen-connect.co.jp/blog/course/product/coded-phy-long-range-ble-module-communication-distance/

③レシーバー感度

3つ目の要素は「レシーバー感度」です。Bluetoothは双方向で電波を授受する通信技術のため、受信側のレシーバー感度も通信距離を伸ばす要因となります。

アンテナを張る人のイラスト(男性)

レシーバー感度とは、レシーバーが解釈できる最小の受信強度を示す指標です。つまり、「どれだけよく聞こえるのか」または「最も小さな音を聞いて理解できるのか」の尺度であるとお考えください。Bluetoothは選択するPHYに応じて、最小で-70 dBmから-80 dBmの受信感度を達成できなければならないという規定もあります。

④アンテナ設計

4つ目の要素は「アンテナ」です。アンテナの種類によってもBluetoothデバイスの通信距離が大きく変わります。

アンテナ種類チップアンテナパターンアンテナロッドアンテナ
通信距離△(短い)◎(長い)
大きさ〇(小さい)×(大きい)
アンテナ種類と通信距離との関係

アンテナで重要な点が『送受信効率』です。送受信効率は波長を捉えるアンテナ線の長さで決まります。よって、外付けのロッドアンテナのように物理的に大きなアンテナの方が送受信効率が高く、長距離通信が可能になります。一方、チップアンテナのようにアンテナを物理的に小さくすることで、ハードウェア設計の柔軟性は上がりますが、肝心の通信距離はロッドアンテナと比べると短くなってしまいます。

⑤経路損失(電波環境)

最後の要素は『経路損失(電波環境)』です。この経路損失が一番影響が大きく、重要です。電波は周囲の金属や水分、または障害物などに対して敏感に影響を受けます。

こちらも実際の結果で確認してみます。見通しのよい直線距離では200-300mの飛距離がでるBLEモジュールであっても、屋内の壁や建物が密集する屋外では、障害物の影響を受け、壁越しで通信距離が数十mまで低下してしまうことを確認しています。

つまり、これまでご紹介した①〜④の要素は『通信距離を向上させる要素』として捉えることができますが、⑤は『通信距離を低下させる要素』です。このことから、長距離通信を実現するためには、デバイスの性能を向上させるだけではなく、いかにその実性能をいかんなく発揮できるかも重要であり、実際に無線通信の利用が想定される環境において十分な検証が不可欠であることがわかります。

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