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【サルでもわかるBLE入門】(14)通信速度と通信距離を最適化するPHY

サルでもわかるBLE入門

こんにちは。ムセンコネクト三浦です。

今回も「サルでもわかるBLE入門」と銘打ってお話していこうと思います。
BLE初心者の方でも理解をしてもらえるように、できるだけわかりやすく解説していきます。

第14回は『通信速度と通信距離を最適化するPHY』についてのお話しです。

今回の記事では、Bluetooth LE通信の「通信速度」や「通信距離」に大きな影響を与える、とても大切な要素「PHY(ファイ)」について、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。

特に、Bluetooth LEで現在対応している3つのPHY、つまり標準的な「LE 1M PHY」、高速通信に特化した「LE 2M PHY」、そして長距離通信に特化した「LE Coded PHY」に焦点を当てて、それぞれの特徴や得意なこと、どのような時に利用するのかを見ていきましょう。

一応注意事項です

わかりやすく解説する為に、Bluetooth® LE(BLE)初心者にはあまり必要ない例外的な内容は省略して説明するようにしています。あえてアバウトに書いている部分もありますのでご承知おきください。
(厳密な技術的内容を知りたいような方は別の解説書を参考にしてください。)

目次

PHYって何? Bluetooth LEの「物理層」

「PHY」とは「Physical Layer(物理層)」の略で、Bluetooth通信のプロトコルスタック(通信の仕組みを階層化したもの)の最も土台となる部分に位置しています。

「PHY」は「ファイ」と読みます。

PHYの主要な役割は、「0 」or「1」のデジタルデータを、実際に空気中を伝わる「電波(アナログ信号)」に変換して送信することです。そして、その逆もまたPHYの役割です。相手から送られてきた電波を受け取り、それを再びデジタルデータに正確に復元します。この一連の変換作業を担うのがPHYであり、正確に行われることで信頼性の高い通信が実現します。

PHYは、情報がデジタル世界と物理世界を行き来するための「橋渡し役」として、通信の品質を根底から支えているのです。

電波の送受信を支える仕組み(GFSK変調の簡単なイメージ)

Bluetooth LEがデータを電波に乗せる時、「GFSK(Gaussian Frequency Shift Keying)」という「変調方式」を使っています。

変調方式とは、デジタルデータを電波の形に変換するルールのことです。GFSKでは、データの「0」と「1」を、電波の「周波数」のわずかな変化で表現します。例えるなら、高い音と低い音を使い分けて「0」と「1」を伝えるようなイメージです。  

標準的な「LE 1M PHY」

「LE 1M PHY(エルイー・イチメガ・ファイ)」は、Bluetooth LEが初めて登場したBluetooth Core 4.0の時代から標準で搭載されている、いわばBluetooth LEの「基本のPHY」です。そのデータ転送速度は「1Mbps(メガ・ビー・ピー・エス)」です。これは「1秒間に1メガビットのデータを送れる」ことを意味し、多くのBluetooth LEデバイスで採用されている、バランスの取れた標準的な速度です。  

LE 1M PHYは、Bluetooth LEの普及を支えてきた基盤とも言える存在です。
Bluetooth LEが「低消費電力」や「低コスト」といったメリットで広く受け入れられた背景には、このLE 1M PHYが提供する汎用性と安定性がありました 。

このLE 1M PHYは、スマートウォッチ、フィットネストラッカー、体温計、体重計など、身近な多くのIoTデバイスで利用されています。LE 1M PHYが多くの身近なIoTデバイスで採用されているのは、その速度と距離のバランスが、省電力性やコスト効率を重視するこれらの製品の要件に「ちょうどいい」からです。

また、「標準的」なPHYですので、対応デバイスが最も多いことも特徴です。Bluetooth LEに対応した製品は全てLE 1M PHYに対応していますので、スマートフォンの機種によって対応している、していないを気にすることなく安心して利用できるPHYです。

「標準的なLE 1M PHY」が安定して広く使われたことが、後から登場した「通信速度に特化したLE 2M PHY」、「通信距離に特化したLE Coded PHY」につながる土台となっています

高速通信の「LE 2M PHY」

「LE 2M PHY(エルイー・ニメガ・ファイ)」は、Bluetooth Core 5.0(Bluetooth v5.0)で導入された、高速通信に特化したPHYです。その名の通り、データ転送速度は「2Mbps」と、LE 1M PHYのちょうど2倍の速さを実現しています。これにより、より多くのデータを、よりスムーズに送れるようになりました。   

LE 2M PHYがなぜ速いのか、その秘密は「変調速度」にあります。LE 1M PHYが1秒間に100万シンボルの速さで信号を変調するのに対し、LE 2M PHYは2倍の200万シンボルの速さで変調します。   

「シンボル」とは、データを表現するための最小単位の信号のことです。

例えるなら、LE 1M PHYが4分音符のように1拍で4つの音を送れるのに対し、LE 2M PHYは8分音符で1拍で8つの音を送ることができます。これにより、同じ時間で倍のデータを送信できるようになります 。   

さらに、この高速化は、無線通信が電波をアクティブにしている時間を短くすることにも繋がります。
同じ量のデータを送る場合、速く送れる分、電波を出す時間が短くなるため、結果的にデバイスが消費する電力の削減にも貢献する可能性があります。

例えば、LE 1M PHYからLE 2M PHYに切り替えることで、エネルギー消費が15%削減されるというデータがあります。
高速化を行うと消費電力が増えるような印象がありますが、むしろ無線機能を効率的に利用することによって全体の平均消費電力を抑えられるという、意外な側面を示しています。 

一方で、LE 2M PHYは速度が速くなる一方で、通信可能な距離はLE 1M PHYよりも短くなる傾向があります。これは、より多くの情報を短い時間で詰め込むため、信号がノイズに弱くなるためです。信号の密度が高まることで、わずかなノイズでもデータが破損しやすくなるため、結果的に到達距離が短くなります。   

長距離通信の「LE Coded PHY」

「LE Coded PHY(エルイー・コーデッド・ファイ)」も、LE 2M PHYと同じくBluetooth Core 5.0(Bluetooth v5.0)で導入された、長距離通信に特化したPHYです。

データ転送速度は「125kbps(S=8)」または「500kbps(S=2)」で、LE 1M PHYよりも遅くなります 。例えるなら、ゆっくりと、でも確実に「遠くまで声が届く」ようなイメージです。  

LE Coded PHYは、従来のBluetooth LEでは難しかった広範囲での通信を可能にするために開発されました。速度を犠牲にすることで、より遠くまで安定して信号を届けることを目指しており、Bluetooth LEの適用可能なフィールド範囲を大きく広げる役割を担っています。  

LE Coded PHYは、1ビットの情報を複数のシンボルで表現することで、同じデータを複数回(例えば125kbpsモードでは8回)送るような仕組みを取り入れています。これにより、電波が途中で弱くなったり、ノイズの影響を受けたりしても、データが失われにくくなります。

さらに、LE Coded PHYは、「誤り訂正」という機能があります。
誤り訂正用のデータを付加してデータを送信することで、受信時にノイズ等の影響でエラーになってしまった場合でも、ある程度のエラーであれば受信側が正しいデータに復元できるようになっています。これらの仕組みを組み合わせることで、理論上は通信距離が4倍に伸びるという効果があるとされています。

LE Coded PHYを利用する場合の注意点

2025年現在、iPhoneはLE Coded PHYに対応していません。Androidスマートフォンも全ての機種でLE Coded PHYに対応しているという状況ではありません。LE Coded PHYの動作が不完全な機種も確認されています。

そのため、コンシューマー向けの製品ではLE Coded PHYの利用があまり進んでいない状況があります。現状ではスマートフォンと連携する場合は、利用可能なスマートフォンの機種を限定できる場合などに限られています。

まとめ

今回は、標準的な「LE 1M PHY」、高速通信に特化した「LE 2M PHY」、そして長距離通信に特化した「LE Coded PHY」の3つのPHYについて紹介しました。

全てに万能なPHYがあるわけではありませんので、それぞれの特徴を理解して利用シーンに応じて、採用する「PHY」を決定するようにしましょう。

次回もBluetooth LE(BLE)の技術要素について深堀りしてお話したいと思います。

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